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最近、精神科医の見解をもとにした『自殺した不登校児の「75%は再登校」していた 不登校児の親が「やってはいけない」ことを精神科医が伝授』という記事を参考にした方から、「子どもを再登校させるのは、自殺につながるのではないか」という声をいただくことがあります。
実際に、この記事で取材を受けた精神科医は、若年層の自殺について調査し研究結果を論文にまとめています。
この論文では、「自殺者のなかで不登校を経験した人のうち75%が学校復帰していた」という結果を報告しており、記事でも調査結果をもとに見解が語られています。
たしかに、お子さんが不登校となったとき、お子さんの気持ちを受け入れず、何も解決していない状態で無理やり学校復帰させるのは、危険な行為です。
ただ、「学校復帰が自殺につながるか」と言うと、そうとは言えません。
むしろ不登校という問題を根本解決したうえでの学校復帰は、自殺という結果を防げているのではないかとも考えられます。
公表されている論文と調査結果をもとに、累計1,000名以上の子どもを再登校に導いた不登校支援の専門家『スダチ』が「再登校は子どもの自殺につながるのか」を解説します。
参照・参考:
【記事】
講談社コクリコ「自殺した不登校児の「75%は再登校」していた 不登校児の親が「やってはいけない」ことを精神科医が伝授」
【論文】
厚生労働省「心理学的剖検データベースを活用した自殺の原因分析に関する研究 分担研究報告書 心理 学的剖検におけ る精神医学的診断の妥当性と数量的分析に関する研究(6)青少年の自殺既遂事例に見られる背景要因,137ページ」
1. この記事の要約
この記事では、対象の論文で公表されたデータをもとに、以下の観点から再登校が自殺につながるとは言い切れないことを解説しています。
- 「再登校の研究」ではなくて、「自殺の研究」であり、対象者は再登校以外の自殺につながる要因も経験している。『再登校=自殺につながる』とは言い切れない。
- 自殺された方20名に実施した調査でサンプルが少なすぎること。
- 不登校経験者8名のうち再登校経験者6名という数を75%と表現していること。
- 対象者が学生ではなく、自殺したとき30歳未満だった者であること。学生生活以外で自殺要因を抱えていた可能性がある。
- 学校復帰の定義に転学や進学が含まれるため、元の学校へ再登校させたことが自殺につながったのかわからないこと。
- この調査の20名においては、データの見方を変えれば「不登校を経験した人の100%は自殺している」「不登校を経験し、再登校支援を受けていない子どもは100%自殺している」といえる可能性もあること。
2. 対象論文の概要と調査結果
対象の論文にて報告されている、調査の概要と結果を解説します。調査対象者や調査内容、得られた結果をまとめました。
2-1. 目的や概要について
この論文では、30歳未満の若年者を対象に、自殺要因について調査しています。
調査の目的は、若年者の自殺要因に「複雑な家庭環境」「いじめ・退学・長期欠席といった学校生活上の出来事」「無職」が当てはまるのかを明らかにするためです。
この背景として、海外では若年者の自殺の要因として「精神障害」「自殺未遂歴」と共に、「複雑な家庭環境」「いじめ・退学・長期欠席といった学校生活上の出来事」「無職」なども挙げられています。しかし日本国内ではこれらが自殺要因として当てはまるのか明らかにされていません。このため、調査が実施されました。
調査期間や対象者などは以下の通りです。
調査対象 | 全国の死亡時に30歳未満だった方のご家族 |
調査期間 | 2016年1月1日〜2010年3月31日 |
分析対象となる回答数 | 20件(20世帯) |
以下の観点から質問を作成して「自殺者が生前どんな経験をしてきたのか」について、調査対象から聞き出しています。
- 家族構成
- 死亡状況
- 生活歴
- 仕事上の問題
- 経済的問題
- 身体疾患
- 精神障害
- 援助希求
2-2. 調査結果について
自殺者が生前に経験した事柄を集計しまとめています。生前に自傷行為が見られていたり、いじめを経験していたりするケースが多いようです。
引用元:厚生労働省「心理学的剖検データベースを活用した自殺の原因分析に関する研究 分担研究報告書 心理 学的剖検におけ る精神医学的診断の妥当性と数量的分析に関する研究(6)青少年の自殺既遂事例に見られる背景要因,143ページ」
3. 「自殺した不登校児の“75%は再登校”していた」と言えるのか?調査結果について解説
結論として、論文内のデータだけでは「自殺した不登校児のうち75%が再登校していた」=「再登校が自殺につながる」とは言い切れません。
理由には、サンプルが少なすぎる点などが挙げられます。公表された調査結果を紐解いて解説します。
3-1. 再登校についての研究ではなく自殺の研究
そもそも、これは「再登校と自殺の関係性」を研究したものではなく、「若者の自殺」についての研究論文です。
また「自殺の直接的な要因は何か」を質問しておらず、「自殺者が生前どのような事柄を経験してきたか」を調査しています。
不登校と再登校だけでなく、精神障害や親との離別などを同時に経験した対象者もいることでしょう。これを踏まえると自殺につながった要因が正確にはわかりません。
『「自殺した不登校児のうち75%が再登校を果たしていた」から、再登校にはリスクがある』と明らかにするためには、不登校の後、再登校した人を調査対象としてサンプルを集める必要があります。
そのうち自殺者が多かった場合に、はじめて「再登校は自殺につながるリスクがある」と言えるかもしれません。
3-2. サンプルが少なすぎる
「20名」という、サンプルが少なすぎることも問題として挙げられます。
30歳未満の日本の年間自殺者数は、2023年で3,331名です。調査が実施された2016年を見ても、2,755名の自殺者がいます。母集団に対し、たった0.7%のサンプルしか集められていません。
さらに、「自殺した不登校時のうち75%が再登校していた」を導き出した数値を見ても以下の状況です。
自殺者20名のうち不登校経験のある人 | 8名 |
自殺者20名のうち不登校経験と再登校経験のある人 | 6名 |
たしかに上記で75%という数値は算出できますが、あまりにも対象者が少なすぎる印象です。
参照・参考:
厚生労働省:「平成28年の自殺の状況」
厚生労働省:「令和5年中における自殺の状況」
3-3. 対象者が学生ではない
この論文の調査対象は、30歳未満で自殺した方です。平均年齢も以下のように記載されています。
20事例 (男性 8事例、女性12事例; 平均年齢22.6 歳SD土4.29 歳 )を分析対象とした。なお、この20 事例には、本調査で本来対象となっていなかった未成年の事例が4件含まれている
引用元:厚生労働省「心理学的剖検データベースを活用した自殺の原因分析に関する研究 分担研究報告書 心理 学的剖検におけ る精神医学的診断の妥当性と数量的分析に関する研究(6)青少年の自殺既遂事例に見られる背景要因,138ページ」
平均年齢は22.6歳であり、社会に出ている年齢です。仕事などを通して、何らかの自殺要因を抱えた可能性もあるでしょう。これを踏まえると再登校が理由で自殺したとは言い難いです。
また、学生の可能性がある対象者はたった4名という点も気になります。これら4名が、不登校と再登校を経験したというデータはどこにもなく、未成年者の自殺要因はわからない状況です。
3-4. 学校復帰の定義に「転学」「進学」が含まれる
対象の論文では、「学校復帰」を以下と定義しています。
本研究では、「不登校の経験後に、転学や進学を含め一時的 であってもいずれかの学校に登校した経験があること」
引用元:厚生労働省「心理学的剖検データベースを活用した自殺の原因分析に関する研究 分担研究報告書 心理 学的剖検におけ る精神医学的診断の妥当性と数量的分析に関する研究(6)青少年の自殺既遂事例に見られる背景要因,139ページ」
元の学校への再登校ではなく、転校や進学も「学校復帰」としています。この場合、進学先で何か問題が発生し、それが自殺につながっていることも考えられるでしょう。「学校への再登校が自殺につながった」と言えない状況です。
また冒頭に紹介した記事は、元の学校へ復帰させることを問題視しています。
その子は休みが必要な状態なのに、親や教員が無理に子どもを登校させる。そうすると『過剰適応』が引き起こされて、子どもは逃げ場がなくなり、うつ病や自殺のリスクが高まってしまいます」親や教員は「学校を簡単に休ませたら不登校になってしまう(=『普通』のレールから外れてしまう)」という漠然とした将来のリスクを恐れて、目の前にある「過剰適応」という大きなリスクから目をそらしがちです。
引用元:講談社コクリコ「自殺した不登校児の「75%は再登校」していた 不登校児の親が「やってはいけない」ことを精神科医が伝授」
「転校」「進学」も再登校に含めて調査を実施しているため、「元の学校への再登校に問題がある」のかは明らかになっていません。
3-5. 再登校が自殺を防げる可能性もある
論文の調査では、自殺者の背景要因のうち「過去の自殺関連行動」が60%と、不登校経験よりも高い数値が出ています。
引用元:厚生労働省「心理学的剖検データベースを活用した自殺の原因分析に関する研究 分担研究報告書 心理 学的剖検におけ る精神医学的診断の妥当性と数量的分析に関する研究(6)青少年の自殺既遂事例に見られる背景要因,143ページ」
「過去の自殺関連行動」とは、以下のように定義しています。
本研究における「過去の自殺関連行動とは 、行為の意図にかかわらず、リストカットなどの自傷行為から、過量服薬や深刻な自殺企図までを含む広範な自己破壊的行動と定義した。
引用元:厚生労働省「心理学的剖検データベースを活用した自殺の原因分析に関する研究 分担研究報告書 心理 学的剖検におけ る精神医学的診断の妥当性と数量的分析に関する研究(6)青少年の自殺既遂事例に見られる背景要因,139ページ」
スダチが支援をした不登校のお子さんのなかには、自傷行為が見られたケースも多いです。ただ、支援を実施していくなかで自傷行為が見られなくなっています。もちろんそれだけでなく、不登校を根本解決して再登校を果たしています。
実際にスダチの事例一覧ページでは、自傷行為が見られなくなった事例をご紹介しているため、参考にしてください。
事例ページ | https://sudachi.support/case |
他にも論文における自殺者の背景要因のうち「大うつ病性障害(うつ病などの症状)」を経験した人も多いことがわかります。
スダチでは、うつ症状が見られたり、病院でうつ病と診断され服薬していたりしたお子さんを支援した事例も複数あります。支援したお子さんは不登校を根本解決し、再登校を果たしました。そして薬がなくても元気に過ごせるようになっています。
これらを踏まえると、不登校を根本解決し再登校することは、自殺の防止につながっているとも言えるでしょう。事例ページでは、実際の親御さんからいただいた直筆のアンケートを掲載しているためご覧ください。
また、以下では、自傷行為が見られていたお子さんを支援した体験記をサポーターが公開しています。
サポーターの体験記 | https://sudachi.support/blog/saitoukou-communication/saitoukou-sakuwazawa1/ |
この事例では2年以上不登校だったお子さんが、再登校を果たし、現在も継続的に学校へ通われています。
そして、自傷行為についても「もうやらないです。」とご本人が親御さんへ伝え、解決しています。
体験記をご覧いただくと、不登校や自傷行為に至る根本的な要因を解決していくことで、お子さん自らが再登校を果たし、自殺という結果も防げていることをご確認いただけます。
4. 大切なことは「不登校を根本解決」して「再登校」すること
対象の論文では、再登校しなかった不登校経験者も自殺しています。そのため見方を変えてしまうと、この調査の20名においては「不登校を経験した人の100%は自殺している」とも言える状況です。
これは、「不登校をそのままにしておいても良い」とは言えないことになります。
また、論文内にデータはありませんが、再登校を経験した人たちは、専門家からの支援を受けずに学校復帰した可能性もあります。そうなると「不登校を経験し、再登校支援を受けていない子どもは、100%自殺している」とも言えるでしょう。
同じデータでも異なる観点で見てみると、データが表す結果が異なることもあります。そのためこのデータだけでは、「再登校が自殺につながる」とは言い切れないと結論づけられます。
ただ一つ、自殺を防ぎ、この先社会のなかで生きていくためには、もしも現状不登校になっているのであれば、その不登校を根本解決することは大切です。
不登校となったお子さんは、自己肯定感が非常に低い傾向があります。自己肯定感の低さから、学校で抱えている問題を乗り越えられず不登校になってしまうことが多いです。
スダチの再登校に向けた支援では、お子さんの自己肯定感を育てることにアプローチしています。支援のなかでお子さんの自己肯定感がどんどん育っていき、お子さんは自ら再登校を果たすようになります。
一時的な登校ではなく、子ども自ら継続的に学校へ行き、不登校を根本的に解決した状態が、スダチの定義する再登校です。
そして自己肯定感を高めることは、自殺防止の観点からも非常に重要とされています。
神奈川県の県立高校では、自己肯定感を高めて若者の自殺を防止するために「認知行動療法」の独自授業も取り入れているほどです。
参照・参考:tvk News Link【公式】「自己肯定感を高め自殺防止へ 神奈川県立高校で「認知行動療法」の独自授業」
もしもお子さんの不登校に悩んでいましたら、一度無料相談の活用もご検討ください。
お子さんの状態をしっかりヒアリングしたうえで、「根本解決」に向けてやらなくてはならないことをお話しいたします。
\無料相談は1対1のオンラインで顔出し不要です/
スダチでは、『不登校診断テスト』の提供をはじめました!現在のご家庭の環境とお子さんの状態を診断いたします。
ただの簡易テストではなく、しっかり現状をヒアリングさせていただくので、各ご家庭ごとに具体的なフィードバックをご提供できます。
オンラインで質問に答えるだけで、解決に向けて取り組むべきことがわかるため、お気軽にご活用ください。