復学支援とは
スダチの小川です。
今回は「復学支援」について、初めて聞く方にもわかりやすいようにお話しします。
不登校が続くと、「とにかく休ませればいい」「そのうち元気になる」という声を耳にする方も多いと思います。しかし、実際は休ませるだけでは状況が長引き、本人も親御さんも先の見通しを失ってしまうことが少なくありません。そこで登場するのが「復学支援」です。
「休ませるだけ」だと、本人は“変化のきっかけ”を掴めず時間だけが過ぎてしまいがちです。復学支援は、休息を尊重しつつも、専門家が伴走し、家庭と学校をつなげ、明確なステップでお子さんの回復をサポートする点が大きな違いです。
復学支援とは、学校を休んでいるお子さんが、もう一度安心して学校生活に戻れるように、専門家がサポートする仕組みのことです。
目標は“ただ登校させる”ことではありません。子どもが「社会ともう一度つながっても大丈夫」と実感しながら、心と体を整え、学びを取り戻し、自分のペースで教室に戻る。そこまでを丸ごと支えるのが復学支援です。
復学支援は「学校へ戻るか、戻らないか」という二択ではなく、子どもが将来の選択肢を広げ、自信を取り戻すための“伴走型プログラム”です。休むことも大切。でも「戻りたい」と思ったときに誰かが手を差し伸べ、具体的な道筋を示してくれる。それが復学支援の価値です。
復学支援とカウンセリングの違い
不登校に直面したとき、多くのご家庭がまず思い浮かべるのが「カウンセリング」だと思います。学校にはスクールカウンセラーが配置されており、まずはそこで相談しようという流れが一般的です。実際、私達にご相談くださる方も「カウンセリングと復学支援の違いを知りたい」とおっしゃいます。そこで、ここでは日本で最も一般的な「傾聴・共感型カウンセリング」を例に取り、カウンセリングと復学支援との違いを分かりやすくお伝えします。
まず不登校のお子さんが変化していく過程は、大きく三つの段階に分けられます。
第一段階は「自己否定」のフェーズです。ここではお子さん自身が「自分は学校に行けなくてダメな子なんだ…」と思ってしまっている状態です。
第二段階は「自己肯定感」を獲得するフェーズです。親御さんなど周りの方の声掛けやカウンセリングによって「学校に行けなくても、自分はありのままでいいんだ」と思えるフェーズです。
最後に第三段階は「自己効力感」を獲得するフェーズへと進みます。「自分ならやれる!」と思えているフェーズです。この段階まで来れたタイミングで背中を押してあげられれば、復学を目指すことができます。
不登校になっているお子さんは、「自己否定」「自己肯定感」どちらかのフェーズにあるケースがほとんどです。
傾聴・共感型のカウンセリングは、主に「自己否定」の段階にいるお子さんが「自己肯定感」を取り戻すために有効な方法です。
一方、お子さんがすでに「自己肯定感」の段階に達している場合、カウンセリングを続けても状況が動かないことが少なくありません。傾聴と共感は「今のままでもいい」と肯定する働きが強いため、結果として不登校の状態が固定化されてしまうことがあるからです。この段階で求められるのはカウンセリングではなく「コーチング」です。コーチングは、「自己肯定感」から「自己効力感」を獲得するために有効な手段と言われています。具体的な目標を設定し、その目標に向けて行動を細分化しながら前進していきます。
復学支援の役割は、「自己否定」の段階にあるお子さんにはカウンセリング的なアプローチを行い、「自己肯定感」の段階まで進めばコーチング的なアプローチを行うという手法を取っています。お子さんの状態を見極めながら、カウンセリングとコーチングを織り交ぜつつ、サポートを進めていきます。復学支援は、最終的に親御さんがお子さんの「カウンセラー」であり「コーチ」になることを目指していただくプログラムです。親御さん自身がカウンセリングやコーチングを実践できるよう伴走し、お子さんを自立へ導ける存在になることを目指していただきます。まずはお子さんの現在地を丁寧に見極め、ご家族と一緒に次の一歩を考えていきます。
復学支援とフリースクール・通信制の違い
近年、不登校の子どもたちを支える学びの場は大きく広がり、フリースクールや通信制高校は身近な選択肢になりました。多様な選択肢があることは素晴らしく、実際にそこで輝いている子どもたちがたくさんいます。一方で、それぞれの選択肢において課題も残っています。それらの課題を解決できるよう私達も努力していきます。ここでは現在の制度上のポイントと課題をまとめ、お子さんの選択肢を選ぶ際の参考にしていただきたいと考えています。
まず、フリースクールについてお話します。フリースクールは不登校の子ども達にとってとても大事な選択肢です。家で引きこもりになるのではなく、フリースクールへ通うことは大変大きな意義があります。また、どうしようもない理由で学校へ行けない子ども達にとっても大切な居場所です。だからこそ、私達も学びの選択肢の一つとしてフリースクールを経営しています。
しかし、フリースクールは現在、学校教育法上の“学校”ではないという課題があります。現行制度では、フリースクールは学習支援施設として扱われ、正式な在籍校にはなりません。出席日数・内申点への反映は“在籍校の裁量”となっており、在籍校がフリースクールでの学習をどこまで認めるかは学校ごとに差があります。出席扱いが部分的に認められても、内申点に十分反映されないケースも多いです。つまり、まだ制度が追いついていないため、毎日フリースクールへ登校し、一生懸命勉強をしたとしても、進路の選択肢が少なくなってしまう現実があります。その結果、フリースクールのみを主な学び場にした場合、全日制高校への進学率は約20%となっており、残りの多くは通信制高校へ進学しております。(文科省資料 2023年度)
私達もフリースクールの制度が追いつくことを願いつつ、お子さんが次の進路へ進めるような形でフリースクールに通うお子さんをサポートしています。
次に、通信制高校についてお話します。 通信制高校では、登校日数や学習時間を柔軟に設定することができます。また、卒業率は95%以上あり、高卒資格を得て大学や専門学校へ進学が可能です。一方で、毎日登校しなくていい分、自己管理力が強く求められます。結果として生活習慣が乱れやすくなったり、社会性を身につける機会が少なくなる傾向にあります。その結果、卒業後「進路未決定」の割合が32%となっています。3人に1人は、卒業後進学も就職もしていない状態になっているということです。これは全日制の進路未決定率4%に比べると8倍ほど高いデータとなっています。また、大学進学後の中退率も20%となっており、これも全体の中退率である7.8%と比べると高くなっています。
これらの数字が示すように、通信制高校は卒業資格取得には強い仕組みですが、卒業後の進路設計と学び続ける力のサポートに課題が残る可能性があると思います。近年は「不登校になっても通信制があるから大丈夫」という認識が広がっていますが、実際にデータを見るとそうとも言えない状況が分かります。もちろん通信制高校でも、週5日毎日通っている子、サポート校を活用している子、ネットコースで1年に1回しか通っていない子など各々のパターンによって、その後の進路は変わると考えられます。私達にも、通信制高校へ通うお子さんの相談は多くあります。通信制に通う中で不登校になり、卒業が難しくなるケースです。だからこそ、通信制高校へ継続的に通えるようなサポートも重要と感じています。これからは通信制高校さんとも良い形で手を組み、お子さんの卒業を支えるサポートもできれば理想だと考えています。
学校復帰という選択肢
続いては、学校復帰という選択肢についてお話します。日本の学校は履修主義で運用されており、学校へ登校して授業を受けることが重要視されています。出席日数がそのまま評価になり、内申点にもダイレクトに反映されるため、選択肢を狭めずに次のステップを選ぶことができる制度となっています。今の日本では、学校復帰という道が子ども達に最も多くの選択肢を残す制度になっています。
ただし、これは「学校復帰が唯一の正解」という意味ではありません。お子さんの心身の状態や環境が整わないまま無理に戻ると、かえって負担が増すケースもあります。大切なのはお子さんの状態を正しく見極めることです。
私達は、子ども達の選択肢は多ければ多いほど良いと考えています。フリースクールや通信制高校も、子ども達にとって大切な選択肢です。だからこそ私達は、医師監修の元作成したチェックリストやカウンセリングを通じて、「学校復帰」「フリースクール」「通信制高校」など複数のルートからお子さんにあった選択肢を検討しています。
今の日本の制度では、学校復帰が選択肢を最大化する手段となっているため、親御さん・お子さんが求めている場合は、学校復帰もサポートいたします。ただし、お子さんに合わないと判断すれば、フリースクール・通信制などを含めた選択肢を紹介いたします。
最終的には、お子さんと親御さんの“納得解”を探すことが大事だと考えています。私達は、「誰も取り残さない」を合言葉に、あらゆる選択肢をテーブルに載せたうえで、子ども一人ひとりの可能性が最大化するルートを一緒に考え続けます。お子さんが最適な選択肢を選べることを心より願っております。